JR西日本三江線最後の増便について考える
JR西日本・三江線は3月末で廃線に
JR西日本では3月半ばに毎年恒例のダイヤ改正を実施します。そして、ダイヤ改正後の3月31日をもって、三江線が廃線となります。鉄道ファンとしては廃線になる路線が出てしまうことは残念ですが、沿線住民の需要を見込みづらいことや、鉄道ファンもアクセスしづらいエリアのローカル線であることなどから、やむを得ないのかなと思っています。
廃線になる路線ともなれば、ダイヤ改正でもさらに冷遇されるのではないか、と考える方が多いでしょう。しかし、三江線は何と最後のダイヤ改正で増便が実施されます。いったいなぜ赤字ローカル線で増便が実現したのでしょうか。
葬式鉄の増加で最後の増便
赤字ローカル線は、鉄道ファンの姿すらまばらで空気輸送になっている列車・区間が多いです。特に、通勤・通学需要を見込みづらい日中時間帯の区間列車は閑散としているケースがほとんどです。
ところが、いざ廃線が決まると、最後に一度(あるいはもう一度)乗っておこうと考える鉄道ファンが現れます。いわゆる「葬式鉄」です。葬式鉄が増えれば、赤字ローカル線の短編成の列車がいきなり混雑し始める場合があります。三江線では特に混雑が激しい列車があるようです。
というのも、廃線になる路線に記念乗車するのであれば、起点から終点まで乗り通したいと考えるのが自然です。ところが、三江線では利用客を見込みづらいことから、全線を走破する列車が限られているのです。また、区間運転の列車でも途中駅で乗り継ぎ待ちが長時間にわたるなどの理由から、葬式鉄の大半が特定の便に集中していました。
廃線を間近に控える3月後半は春休みシーズンでもあり、学生を含めた鉄道ファンが大挙して全線を走破する列車に乗りに来る可能性があります。数少ないとはいえ沿線住民が利用する際に列車が混雑しすぎたり、鉄道ファンがあふれてホームから転落したりするリスクが高まります。そこで、JR西日本は全線を走破する列車を増便し、乗客の分散を図ったのです。
乗客の分散と言えば、都市中心部付近の駅を各停のみ停車として遠近分離を図るなど、利用客が多い路線のダイヤ編成で主に考えられることです。もともと列車の本数が少なかったとはいえ、廃線になる赤字ローカル線で最後に乗客分散を目的とする増便が行われるのは皮肉なことのように思います。
ただ、それでも鉄道ファンだけでなく沿線住民も、最後に貴重な鉄道の存在が広く認知されることに一抹の喜びを覚えるかもしれません。JR西日本はもちろん、沿線住民の方々にも、少しでも「三江線があってよかった」と思ってもらえれば廃線になる残念さはあっても幸せも感じられるのではないでしょうか。
赤字ローカル線はSNS活用等で注目度アップを図るべし
廃線が決定すると鉄道ファンが押し寄せるというケースは、三江線以外でも少なからず見られます。そのため、注目度を上げたり、希少価値を高めたりすれば赤字ローカル線に鉄道ファンを呼び込みやすくなると言えます。そもそも赤字ローカル線の多くでは徹底したコスト削減を進めているほか、沿線自治体からの補助金が支給されているケースも少なくありません。そのため、たとえ数は限られていても鉄道ファンを誘致できれば鉄道の存続に有効だと思います。
そこで、期間限定で快速列車を走らせたり、幹線との直通列車を設定したりして、鉄道ファンにとっての話題作りにも注力してほしいと思います。SNSなどを活用して呼びかければファンの間でうわさが広がり、その中で数%でも実際に赤字ローカル線に乗りに来る人がいればよいと思います。SNSによるPRはコストも限定的なので、赤字ローカル線を抱える鉄道会社には今すぐにでも実施してほしい取り組みです。
現状では、赤字ローカル線の多くは沿線の魅力的な食べ物や観光資源を紹介するなど、悪までも一般的な観光客を狙っているケースが多いです。もちろん観光需要を喚起することも大切ですが、鉄道ファンという、列車の運行そのものに関心を持つ層にアピールできれば、観光資源が乏しい地域でも赤字縮小につなげられるのではと思います。三江線の廃止は決定していますが、他の赤字ローカル線は維持に向けて工夫を重ねてほしいです。